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〈ライナーノーツより〉

ジャズという音楽は不思議な音楽である 。
普通、ソロをとるサックス、トランペット、ギターなどのフロントプレーヤーと違い、 いわゆるリズムセクションと呼ばれるベース、ドラムなどは、常に音を出していなくてはならない。曲によっては地味にルート弾きを淡々と続け、ベースが本当に目立たない場合も少なくない。しかし、ベースは「Heart of Band」、つまり、バンドの要と言 われるくらい重要なパートである。
そのベースを、60年近く弾き続けて来たレジェンドが川上俊彦だ。昭和30年代はじめ、当時福岡で有名なタンゴバンド「佐川峯とオル ケスタ・ティピカ」で、ただ立ってボンボンと弾くふりをしておけばいいといわれ、参加させられたのがベースを始めたきっかけらしい。
その後、独学でベースを習得、中 洲のクラブなどで黙々と弾いていた。そして、休憩時間などに立ち寄っていた中洲の 老舗ジャズ喫茶「リバーサイド」で、運命的な出会いがある。ブルーノートレコードからながれるポール・チェンバースのベースに魅せられたのである。
 
ここからジャズ ベースの道が始まる。そして、トップジャズバンド「松本孝一とジョリー・トーン・デ キシーランド・ジャズ・バンド」へ入団。ここでジャズベースの基本的な奏法を習得、その後モダンジャズへと進む。
以降、数々のバンドで修行を重ね、1978年に自己のバ ンドを結成し、福岡の有数の高級なクラブ「みつばち」の専属となる。しかし、2001年 「みつばち」も閉店、その後フリーでライブ活動を始め今日に至る。
よくジャズメンの間で、ジャズをズージャ、コマーシャルをシャリコマとか逆に言い合うことが昔流行ったが、川上俊彦のベースの立ち姿は、まさに絵になり、醸し出す雰囲気は、音が出ていなくても、もうズージャの世界なのである。
後輩ジャズメンへのアドバイス、そしてセッションで初心者にも時間も忘れ、手取り足取り丁寧親切に教える姿を幾度も見た小生、感動すら覚えた。年齢を重ねた味のある音、そしてステディなリズム、今も進化し続ける、正に博多が生んだ名ベーシストである。
今は、健康のため摂生し「フロスキー」というあだ名を自ら名乗るほどの無類の風呂好きでもある。
 
好きなベーシストはレイ・ブラウンという。これまで、ギル・コギンス (p)、メル・ルイス (ds)、ラルフ・ペンランド (ds)、ルイス・ナッシュ(ds)、 白木秀雄 (ds)、世良譲 (p)、藤家虹二 (cl) など数々の有名ジャズメンとの共演を重ねてきた。
そして、今年80歳の傘寿(さんじゅ)を迎えた川上俊彦の待望の初リーダーアルバムが完成したのである。ピアノ緒方公治、ドラム木下恒治の気心の知れたこの3人のトリオに加え、ゲストにお馴染みのボーカル Mayumi、若手サックスのホープ、浦ヒロノリが参加している。
この記念碑ともいうべきアルバム、すべてオリジナルで固められている。何十年も前からコツコツと作曲してきたものである。どれも素晴らしい曲ばかりだ。実は小生の為に「Kogushi」という曲を作っていただいた。いまもスコアーを額に入れ、大事にしている。
このアルバムは昭和から平成、そして令和と3代に渡り活躍する、我らが「川上・フロスキー・俊彦」、渾身の記念碑的アルバムである。是非、聴いていただき、そして子供、孫たちの世代に伝えていただきたい。
 
 

中洲ジャズスポット「リバーサイド」 元店主
小串 洋一